高知県立歴史民俗資料館顧問(2014年時 現在、土佐史談会 会長)
宅間 一之様
2014年 文化財維持・修復事業助成財団への推薦書より抜粋

長谷寺は、香南市中央心部よりほぼ20キロ、山道を登る標高600mに所在する寺院である。藤原期の2体の像をはじめ、数体の像と、文明3年刻銘の梵鐘が県指定される古刹である。修復を目指す仁王像は平成3年高知県文化財保護審議会会長、前田和男氏調査により、両像とも212㎝寄木造、室町期の作と報告されている。(『私のメモ帳』1994,3)本県の仁王像の指定は、正応4年の枘銘の禅師峯寺(像高140㎝)が国重文に、法華寺(像高200㎝)が県指定されるのみである。本寺の仁王像はこの2件を凄驚する大きさであり、制作も室町期と古く県内希有な存在である。寺では指定による保護や老朽化の手当について行政とも関りを続けたが解決をみず、ここに至っては寺も檀信徒も放置は壊滅と判断せざるを得なくなった。

本寺は「欲塵を脱する別天地」の言葉通り眺望もひらけ、かつては険路ではあったが寺への道は数多く、交易政治の要路であり、生活道でもあった。しかし今は忘れられた道となっていた。しかし近年、縁を求め癒しを求め歩く人達は増加し、歴史の道回復要望の声も高まってきた。香南市観光協会の「座禅in羽尾」の事業も若者間でも好評を続け、寺や檀信徒も昭和57年には『長谷寺詩資料編』を編集し、以来『長谷寺史』刊行にも鋭意取り組みを続けている。

寺のシンボルでもある仁王像の修復事業は、こうした時代の変化への対応も視野に入れ、過疎化の中で悩みながらも、地域の活性化、寺を中心とした地域の盛りあがりを目指し地域再生へのヒントを求めての事業でもある。

 

 

令和二年修復前の仁王像

阿(あ)形

 

吽(う)形